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2010年06月02日

ラグジュアリーマンションのコンシェルジュから観た景色。

乙はラグジュアリーマンションのコンシェルジュだった。

2重のカードキーがかかっているマンションのフロント
には24時間体制でコンシェルジュが2人座っている。

毎日座っている乙の視点からは様々な人間模様を観
ることができた。

1人ひとりについて1冊ずつ本が書けるくらいだった。

ラグジュアリーマンションはプライバシーを大切にした
い住人が多い。

実際にテレビで見たことのある住人も珍しくない。

だから必要最小限しかマンション内では会話がない。

お互いプライバシーを大切にしたいもの同士の暗黙の
了解なのだ。

もちろん普通のサラリーマンなど1人もおらず、真昼間
からこの人は一体何をやっているのだろう・・・という住
人が多かった。

まさに違う惑星の住人たちだった。

ファッションやビヘイビアの勉強にもなった。

そんな中で最近入居してきた甲がひと際目立った。

甲はいつも待機しいてるコンシェルジュに元気な声で、

「行ってきます」「ただいま」

と声をかけた。

普通の住人は軽く会釈をすればいいほうで、

「おはよう」「こんにちは」「こんばんは」

と小さな声で返事があれば奇跡だという。

瞬く間に甲はコンシェルジュの内で有名になった。

コンシェルジュは計6名が24時間365日交代制でこな
していた。

もちろん全員良家のお嬢様ばかりである。

乙の父親は大手生命保険会社の重役で東洋経済新報
の役員四季報にも毎年名前が載っていた。

乙は甲に興味を持った。

今までは暇つぶしに目の前をただ通過していくだけの
住人に対して、この人はどんな人だろう、仕事は何を
しているのだろう・・・と連想することはあった。

しかし今回は違った。

乙は嬉しさのあまり、試行錯誤の上で甲のために特別
なあいさつを考えた。

甲がいつものように本を脇に抱えながら早歩きでエレベ
ータールームから出てきて一瞬だけ乙としっかりと視線
を合わせ、

「行ってきます」

と声をかけた。

乙はこのとき初めて勇気を振り絞ってマニュアルにはない
あいさつを返した。

「行ってらっしゃいませ」

いつもより2秒ほど長く目を合わせることができた。

乙の心臓の鼓動が高まった。

それはまるで乙が学生時代にトライアスロンに初参加した
スタート直前の緊張感に似ていた。

数時間後、甲はタリーズコーヒーのペーパーカップと、1冊
の本を脇に抱えて戻ってきた。

本のタイトルがホンの一瞬、チラリと見えた。

『不思議の国イタリア』

と書いてあった。

ますます乙の頭を混乱させたが今度は乙から先に、

「お帰りなさいませ」

と言ってみた。

甲はいつものように、

「ただいま」

・・・とは言わなかった。

少し驚いた表情で間をおいて、

「ありがとう」

と乙に返してくれた。

そのまま颯爽とカードキーでエレベータールームへと
消えて行った。

乙は甲にますます好奇心を募らせた。

毎日昼過ぎにカジュアルな格好で出かけて、しばらく
してまた戻ってくる。

何よりも毎日が大学生のようなイキイキとした顔をして
いたのが乙にとってすこぶる新鮮なことだった。

甲の仕事はいったい何だろう・・・

コンシェルジュを統括する粋なスーツを着こなしたアラ
フォー美人チーフが、乙の肩を後ろからポンと叩いて、
ハスキーな声で囁いた。

「フフ、甲さんはね、・・・」


...次代創造館、千田琢哉

★2010年4月刊『20代で伸びる人、沈む人』
★2009年9月刊『こんなコンサルタントが会社をダメにする!』
★2009年8月刊『尊敬される保険代理店』
★2009年8月刊『存続社長と潰す社長』
★2009年6月刊『継続的に売れるセールスパーソンの行動特性88』
★2008年9月刊『社長!この直言が聴けますか?』
★2008年6月刊『THE・サバイバル 勝つ保険代理店は、ここが違う』
★2007年10月刊『あなたから保険に入りたいとお客様が殺到する保険代理店』

投稿者 senda : 2010年06月02日 00:00

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