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2010年04月07日

想ひでの薫り

「甲の部屋、本の、・・・匂いがするね」

初めて甲の部屋に招かれた乙はそう囁いた。

甲も乙も大学生だった。

甲の部屋にはビッシリと本棚が並べられていた。

正確にいうと本棚の中に甲は住んでいた。

2年生まではアパートの2階に住んでいたが、
1階の住人からクレームがあった。

「天井が近づいている」

というのだ。

甲は大家さんに連れられて1階の部屋の天井を
見た。

確かに天井が近づいていた。

原因はハッキリしていた。

本の重みである。

すぐに1階の住人と入れ替わった。

2年間で買いためた本は部屋の壁にびっしり並べ
られた本棚から溢れかえっていた。

甲は1階に移って安心し、さらに本の購入に拍車
がかかっていった。

仙台市内の一番町通りにあった丸善と金港堂に
は毎日欠かさず足を運んで本をどっさり買い込ん
でいた。

甲が卒業していなくなってからすぐにそのうち一方
が閉店した噂を聞いたとき、なぜか責任を感じた。

甲の部屋はすっかり図書館のようになっていた。

続けて乙は言った。

「そう、これ、図書館の匂いだわ」

甲は図書館の匂いをイメージしながら自分の部屋の
匂いを改めて嗅いでみた。

カビ臭い匂い?

「本のカビ臭いにおいって、何かいいよね」

乙はつぶやいた。

「カビ臭い匂いが?」

甲は部屋がカビ臭いと言われて怪訝な顔をした。

「うん、何かエッチな匂い・・・」

大学の文学部で美術史を専攻していた乙の清純な顔
と「エッチ」というストレートな表現のギャップが妙に印
象的だった。

10年後、パリからその時住んでいたアパートの写真が
送られてきた。

写真には、

「本のカビ臭い匂いは、想ひでの宝物です」

と書いてあった。

乙が結婚した便りだった。


...次代創造館、千田琢哉

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投稿者 senda : 2010年04月07日 00:00

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