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2009年09月30日
よかった、落ちてくれていて…
勝負は、一瞬だった。
掲示板に甲の番号はなかった。
「や、やったぁ~」
後から後から押し寄せる群れの中、ただ一人だけ、
バンザイをするスラリとした長身の女性がいた。
甲の腕にしがみついていた乙だった。
「よかったぁ~、あなたが京大に落ちて。
初詣でお願いしたことが叶った。神様って本当にいるのね」
乙は涙ぐみながら言った。
乙の顔があまりにも幸せそうだったので、
アメフトの部員たちに二人で揃って胴上げされてしまった。
立て続けにフラッシュが光った。
レポーターは甲にではなく、垢抜けた乙にマイクを向けた。
「おめでとうございます!合格の要因は何ですか?」
乙はハキハキと答えた。
「はい。愛の力です」
甲は異様な盛り上がりを見せたこの写真が、
来週号の「サンデー毎日」の表紙に掲載されないかヒヤリとした。
・・・・・・・・・・
二人ともようやく掲示板の人だかりから脱出した。
「オマエ、どういうつもりだよ」
甲は乙の腕を引っ張って顔を睨んだ。
「だって、これで一緒に慶応に通えるもん」
乙は慶応大学理工学部に進学が決まっていた。
乙は屈託のない笑顔で甲の腕に力一杯しがみついて囁いた。
その瞳の中にかすかな寂しさが垣間見えた気がする。
甲はこのときの乙の笑顔を生涯忘れることはないだろう。
甲は落ちたら潔く、
乙と一緒に合格していた慶応に通うと約束していた。
甲はこのとき初めて今まで交際してきた乙に対して、
「コイツ、すごいな」
と脅威を感じた。
1ヵ月後、
甲は乙に内緒で後期日程に出願していた、野暮ったい
某国立大学のキャンパスにただ1人ポツリとラコステの
ポロシャツを着て立っていた。
はるばる新幹線で到着した駅のホームにはさとう宗幸の
感動的名曲「青葉城恋唄」が流れていた。
寒さと共に、身に沁みた。
乙は現在、物理学者として活躍している。
ホームページで学者プロファイルを見る限り、
まだ旧姓のままだ。
...次代創造館、千田琢哉
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★2009年8月刊『尊敬される保険代理店』
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★2007年10月刊『あなたから保険に入りたいとお客様が殺到する保険代理店』
投稿者 senda : 2009年09月30日 00:37